ニンゲンメモ

タメになりそうでタメにならない日記

マリトッツォ - この日この場所から世界史の新しい時代が始まる

新型コロナウイルス感染症,通称COVID-19.それは,2021年も世界各国で感染拡大を続け,人々のココロは感染への不安と行動変容に対するストレスに蝕まれた.

 

一方その頃,日出ずる国 日本ではマリトッッッツツォォォなるナゾのスイーツが流行していた.その爆発的なブームのきっかけとなったのは,実は新型コロナウイルス感染症による行動自粛である.お持ち帰り客の数が爆発的に増加した,福岡県福岡市の大人気パン屋が,客を効果的に分散させるために,おやつタイムに似つかわしいお持ち帰りアイテムを置こうと考えたのが起源だという.

 

その独特なフォルム,圧倒的なインパクトから,各種SNS上で爆発的に拡散され,コンビニ各社が躍起になって取り扱いを始めるなど,その人気は留まることを知らなかった.それは,疫病の流行に負けんとする,人々のココロの強さの表れ,なのかもしれない.

 

 

マリトッッッツツォォォ(maritozzo)とは,オレンジピールで香りづけしたブリオッシュのような軽い食感のパンに,生クリームをたっっっぷりと挟んだイタリア発祥のドルチェ,要するにスイーツである.

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マリトッッッツツォォォ

イタリアの歴史はマリトッッッツツォォォと共にあったと言っても過言ではない.現代のイタリアでは,多くのイタリア人たちが朝のカッヒェでコーヒーを片手に,マリトッッッツツォォォを頬張っているが,その起源はなんと,紀元前 古代ローマにまで遡る.当時のマリトッッッツツォォォは,現代のそれより遥かに巨大なパンに,生クリームではなくレーズンなどのドライフルーツが入った質素なもので,イースター前の食事節制の期間にキリスト教徒たちが口にする粗食として重宝され,エル・サント・マリトッッッツツォォォ(er santo maritozzo; 聖なるマリトッッッツツォォォ)などと呼ばれたという.

この聖なるマリトッッッツツォォォは,今から半世紀前には,ニンゲンを惑わせる生クリームの悪魔へと姿を変えている.1964年,詩人のイニャツィオ・スフィオーネ(Ignazio Sfione)はマリトッッッツツォォォについて次のように謳っている:*1

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僕の前に,白くきらめく生クリームがぎっしり詰まった君が居る.

僕の喉には唾液が溢れ,僕は君を惚気ながら愛でている.

君は僕のコレステロール値を急増させると医者は言うけれど,

それでも僕は君に言うよ.

僕の可愛いマリトッッッツツォォォ,僕は君にかぶりつくよ.

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なるほど,生クリームはニンゲンの正常な思考を狂わせるというわけである.

 

それから実に57年の月日が流れ,イタリアから遠く離れた黄金の国 ジパングセブンイレブンでは,独自の進化を遂げたマリトッッッツツォォォが姿を現した.その名も

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どら焼きマリトッッッツツォォォ

 

である.「オレンジピールで香りづけしたブリオッシュのような軽い食感のパン」とやらはどこかに消え失せ,大きく開けた口の中にはジャパンの代名詞であるアンコがたっぷりと詰め込まれている.うーん,これはドラ焼き,ドラちゃんが喜んで食べるヤツであって,常軌を逸した生クリームポエムの主題となった,あのマリトッッッツツォォォではない.

 

そういうわけで我々は,真のジャパニーズマリトッッッツツォォォを求めて,ニッポンの首都 東京へと旅立った.それは我々ニッポン人が新型コロナウイルス感染症と闘った証であると同時に,新たな異文化融合の形でもある.

 

我々は事前にサーベイサーベイを重ねていたが,どうもマリトッッッツツォォォの店はやはり原宿に集中しているようである.(アラ)サーになると竹下通りを歩くのは少し恥ずかしい.トゥルーマリトッッッツツォォォのことを考えながらスーツケースを転がす我々であったが,その周りには同じくシャイボーイをしているスーツを着た中年男性たちが,「僕ら竹下通り歩いちゃってますよ!」などとのたまっている.しかし我々は負けるわけにはいかない.そこにマリトッッッツツォォォがある限り.

 

恥ずかし乙女になりながら竹下通りを通り抜け,開店直前のお店に到着する.しかし,席に着いたがメニューが無い.はて,どういうことかしらという顔をしていると,「メニューはこちらのQRコードからLINE友達登録をしていただけるとご覧いただけます」と言われる.は?なぜ?LINE入り端末の無い客が来たらどうするの?とか思ったが,ここは原宿.そのような客はアウトオブ眼中,マリトッッッツツォォォを食べるに値しないというワケである.万物の真理の全てを理解し,マリトッッッツツォォォ有資格者になった我々の目の前に,ついにヤツが現れた.

 

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こ,コレが!ニッポンの!!!マリトッッッツツォォォ!!?????

 

 

美しい弧を描く曲線形のパンに,白くきらめく生クリームがこれでもかというほどに詰め込まれ,最密充填構造を成している.これが,古代ローマが産んだ奇跡… 悠久の時を経て,2021年の原宿に今降り立ったのだ.

 

一口,二口と食べてみる.「ブリオッシュのような軽い食感のパン」とやらが随分軽い,というか安っぽい.エッ,ジャパンさん!?? いや生クリームは美味しいはず,なぜならば私は生クリーム専門店を名乗る店に来ているからである.

 

ウッ..... 

 

半分くらい食べたあたりから胃が悲鳴を上げ始めた.例えるならアレだ,名古屋の喫茶マウンテンで甘口抹茶小倉スパゲティーを食べたときの不快感に似ている.昔は生クリームを飲み物のように食べる甘いもの大好きボゥイであった我々であるが,こんな程度で音を上げるザコに成り下がってしまった.ウゥゥ....

 

しかし我々はしぶとかった.マリトッッッツツォォォを食べなければ,俺たちの2021年は終わらないこれは全てのニッポン人の,汗と涙の結晶なのだ

俺たちは負けるわけにはいかない!

 

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完食

 

 

それではみなさん,良いお年を

 

 

 

 

 

*1:原文は次の通り(訳はGoogle翻訳を見ながらふいんきで書いた):

Me stai de fronte, lucido e ‘mbiancato,
la panna te percorre tutto in mezzo,
co ‘n sacco de saliva nella gola,
te guardo ‘mbambolato e con amore.
Me fai salì er colesterolo a mille,
lo dice quell’assillo d’er dottore,
ma te dirò, mio caro maritozzo,
te mozzico, poi pago er giusto prezzo!