ニンゲンメモ

タメになりそうでタメにならない日記

咀嚼音ユウチュウバーと認識のコペルニクス的転回

それは当時のキリスト教的宇宙観を覆した地動説のように

それは当時のイギリス経験論哲学を覆したカント哲学のように

文字通り、天と地をひっくり返すような衝撃であった

 

 

「咀嚼音ユウチュウバー」が流行っている、ということであった

あまりの衝撃に、思わず耳を疑った

 

美容師サン氏の話はこうである

食べ物を噛み砕く際に生じる音が、実はニンゲンの脳にとって非常に快適な音で

この咀嚼音を聴くことで、ニンゲンは快感を感じることができるのだ、という

この快感により、安眠効果、ストレス低減、さらには孤独感の緩和が期待できるらしい

咀嚼音を聴くだけで、である

 

このような快感には名前が付いていて、

自律的感覚絶頂反応(Autonomous Sensory Meridian Response)

通称ASMRと言うらしい

 

それを聞いた僕は

青ヒゲがモジャモジャしたオジサンの口元をアップにした

モシャモシャとモノを食っている動画を観ながら

インターネッツの向こうの若者たちが絶頂している構図を思い浮かべたが

違う、そうではないということであった

 

咀嚼音ユウチュウバーへの道のりは厳しい

 

まず、オジサンではない

少なくとも口元はカワイイ美少女でなければならない

 

また、咀嚼音を美しく録音するためには非常に高価なバイノーラルマイクを購入する必要がある

 

当然、食べるものにも気を使わねばならない

どのような食べ物であればニンゲンの脳に絶頂をもたらす咀嚼音になるか

クチャクチャ・ネチャネチャなどでは話にならない

パリッパリッやゴキュッゴキュッなどの音を実現して絶頂させねばならないのだ

 

さらに、同じ咀嚼音では脳が飽きてしまう

複数種類の食べ物をどのような順序で、どのようなリズムで咀嚼するか

咀嚼音ユウチュウバーは絶頂のプロフェッショナルでなければならないのだ

 

この話を聞いて、それは妙じゃないですか、と言った

だってそうでしょう? 

本当に咀嚼が脳にとって絶頂ならば

口元が美少女であるかオッサンであるかは関係ない

重要なのは、それがどのような咀嚼音であるか、だ

 

この重大事について我々は激しく議論したが、結局答えは出なかった

僕は「やはり性か・・・」と勝手に結論を出した

 

疫病が流行しているので外出を自粛しなさい、

外出は悪だ、と言われて、数ヶ月の月日が流れた

 

咀嚼音ユウチュウバーとは

外出自粛を求められ、行き場を喪った若者たちが辿り着いた

最後の希望、なのかもしれない

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咀嚼音ユウチュウバーは、文字通り、腰が抜けるほどの衝撃であった

 

大勢の人々が、咀嚼音で絶頂している現象それ自体も衝撃的であるが、

どちらかというと、この現象を生じさせたユウチューブという共体験環境に驚愕した

 

僕は古いニンゲンなので

ユウチューブというものを

前時代のニコニコ動画ニコニコ生放送が姿・形を変えたものでしょうと思っていた

正直、ナメていたのである

 

しかし、そうではない

ユウチューブはもはや新たな文化を創造する基盤であり

今この文章を書いているあいだにも、新たな文化が産声をあげているのだ

 

そして、文化というものはいつだって若者が創り出すものなのかもしれない

我々が若者をしていた頃は、それはそれはギャルヲ概念に憧れたものだが

今時の若者は、咀嚼音で絶頂することを何よりも求めているのだ

 

当時のギャルヲ概念が老人世代にはまるで理解されなかったように

我々は咀嚼音絶頂文化を見て、口を揃えて理解できないと言う

 

だが、それは我々のあるべき姿だろうか?

我々は、若者たちの咀嚼音絶頂文化を通じて、

多くのことを学ぶ必要があるのではないだろうか?